ミャンマー ヤンゴン(3)底に流れるもの

Myanmar Yangon
読書

ミャンマーの識字率は小学校2年生程度で93%小学校4年生程度で76%です。中学校終了率は41%と中途で学業を離れてしまう(離れざるを得ない)人たちが過半数以上です 。観光地では 学校がある時間に、 チップを狙って小さな子供達が必死の形相で押し売りのようにまとわりついてくることもあります。学びの機会は今は万人に行き渡っているわけでは無いことが分かります。

では、読書はあまり人気がないかというとそんなことは無く、街中には道端に本を並べた本屋が多くあり、古い本を仕立て直して大切に売っています。 仕立て直した古本ですから背表紙はテープで糊付けされて、決してきれいな状態ではありません。 民主化以前は検閲があり、本が貴重で何回も仕立て直して大切に読みまわしたのだと聞いています。写真の店は英語の本を並べていました。ほとんどが小説やドキュメンタリーなどの読み物でした。

道端の本屋 左の椅子に座って古い本を解体し、再び仕立て直します。

本以外にも、カレンダー・世界地図・ポスター・新聞・雑誌などが果物や野菜と並んで道端の露店で売られています。アウンサンスーチー氏のポスターはとても種類も多く目立つ場所に並べられています。

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木箱の上に板や容器を置いて物を売るのは繁華街の露店のスタンダード

旧市街を離れた高級住宅街の中に 住宅を改装したブックカフェがあります。ヤンゴンにいくつかの店舗を持つヤンゴンブックセンターが、昨年別の場所からここにブックカフェを移転したのだそうです。ヤンゴンブックセンターは本の輸出入商社も兼ねており、ミャンマーの古書をデジタル化して販売もしています。Supplying the World’s Knowledgeが標語になっていますので、販売の対象は決して英語を使う外国人だけではないことが分かります。

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戸建てのブックカフェ 一階と二階に本の売り場 一階フロアの四分の一がカフェ

自国のデザイナーによる洗練されたインテリアの店内にはミャンマーの本から欧米の物まで、子供向けの本やコミックから学術専門書まで、質が高く幅広いジャンルの本が並んでいます。特に英語の専門書が多く、マーケティングのジャンルはかなり充実していました。 価格は日本で買う洋書と同等くらいでミャンマーの一般の人が簡単に買える値段ではありません。それでもヤンゴンの学生らしい何人かの若者が本を選んでいました。

英語の話せる店員が案内をしてくれます。カフェもまた洗練された品の良い内装で、よほど音楽が好きな人でなければ知らないだろう アメリカのシンガーソングライター Iron&WineのTime After timeが静かに流れています。 ミャンマーでもスマートフォンの普及により本は急速に読まれなくなっているそうで、この店は今後の実験店の位置づけなのかもしれません。

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会計カウンターと推薦本のディスプレイ  オバマ元大統領伝記 子供向けの本 中国についての本 マーケティング専門書 等
カフェのテーブル ミャンマーブックセンターの女性経営者の自伝
経営者だけでなく、この店舗のスタッフとマネジャーも全員女性でした
ミャンマーは女性の社会進出が進んでいると聞いていましたが、街の店舗の多くで女性のマネジャーを見かけました

信仰

ミャンマー国民の大多数(87.9% 約4,500万人)が仏教徒であり、かつ個人の功徳が求められる上座部仏教です。パゴダは一般仏教徒(僧侶でない)の祈りの場、神聖な場です 。

シュエタゴンパゴダの入り口 ここが境界となり、階段の下で裸足になって丘の上に向かう長い廊下を上ります。

シュエタゴンパゴダはミャンマーのなかでも最も有名なパゴダであり、多くの信者が真剣に祈りをささげていました。暑い国なので建物に壁は無く、祈りが終わった後は柱にもたれ微風に吹かれてのんびりと過ごす人たちも多く見られます。金色の仏像の周りをLEDが飾っていても、日差しと日陰のコントラストのなかでは、違和感はありません。

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仏教徒が大多数を占めるとはいえ、そのほかキリスト教(6.2% 約310万人)やイスラム教(4.3% 約220万人)など他宗教の人口もそれなりに多く、必ずしも仏教一色の国ではありません。ヤンゴンの旧市街にはカトリックの大聖堂があります。オランダ人の設計によるゴシック様式の建築です。その色使いはヨーロッパとは異なった強い色調が感じられました 。こちらも神聖な宗教施設です。週末には信徒が集まり神父によるミサが行われます。

人口

ミャンマーの人口ピラミッドは底辺の広い三角形になっており、街中に老人の姿は比較的少なく若い人たちが多い印象を受けました。急激な変化の中で、今後は世代により生活環境が全く異なるものになるのでしょう。

昼間の公園の食堂でスマートフォンに集中する若者
親子三代で記念撮影

底を流れるもの

ミャンマーは第二次世界大戦後1948年にビルマ連邦としてイギリスから独立、その後1989年に現在のミャンマー連邦に改名した多民族国家です。 ビルマ族が7割を占め、そのほかカレン族、モン族、シャン族、等の様々な少数民族がおり、少数民族で単独で構成される州も7つあります。また、近隣のインドと中国からも人が多く流入し、ヤンゴンでそれぞれが街区を構成しています。多数を占めるビルマ人の文化が主流であるとはいえ、それだけでは理解しがたい波長の異なる脈動のようなものが常に響いてきます。

ヤンゴンでは宗教建築以外にはミャンマー固有の建築を見ることはできませんでした。この街が植民地としてイギリスによって計画され作られたものだからでしょう。植民地以前のミャンマー固有の歴史的建造物が宗教建築以外には無いので、再開発にあたっては植民地時代の建築をどのように位置づけるかが問われます。これからヤンゴンの歴史に向き合って、ミャンマーの人たちはどのように新しい街をつくるのか、非常に興味深く感じました。

英語を話す若いタクシー運転手は、変わりつつあるミャンマーの未来に期待し自身の将来に希望を持っていると語ってくれました。ホテルのスポーツジムのインストラクターは、これから増えるエリートビジネスマンのためのジムを立ち上げるアイデアがあると教えてくれました。ホテルの女性スタッフは、よりよい将来のために兄は英語の塾を経営し、自分も勉強し努力していると語っていました。

未整備で荒れた都市のファシリティやインフラであっても、それがさらに劣化が進む過程なのか、整備され発展する未来への起点なのか、その捉え方次第で景色の見え方は全く正反対になります。いまヤンゴンにあるのは 過去の負の遺産を乗り越えるべく進行している経済発展とその波に乗って行こうとする人たちの希望です。
一見のんびりと見えても背景は複雑なこの国のなかに身を置いて、今しか見られない一瞬を目撃できたことにいささか興奮を覚えつつ、次の目的地バンコクへ向かいました。

ヤンゴン南端のヤンゴン川。対岸の町にわたるためのフェリー乗り場。橋はまだ無い。 英語を話すタクシー運転手は、河を見ながら変わりつつあるヤンゴンの事と将来への希望を語ってくれました。この河にも2022年には中国の資金で橋がかかる予定です。

(文中のデータは ユネスコによる)

タイ バンコク(1)観光装置へ続く